離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 キスできそうなほどに顔を近づけて桔平さんがささやく。照明を落としているせいかいつも以上に彼が色っぽく見える。

(桔平さんは真面目に私の勉強のことを考えてくれてるのに、私ってば!)

 やましいことばかり考えてしまう自分が恥ずかしくなる。もっと真剣に台詞を聞き取ろうとして私は桔平さんの腕から逃れて前のめりの体勢になる。
 すると、すぐに彼に腕を引かれてさっきよりずっと密着した状態にさせられてしまった。私のお尻は桔平さんの膝の間にすっぽりとおさまっていてまるで抱っこされているみたいな感じだ。桔平さんの腕がおなかに回りギュッと抱かれる。背中に感じる彼の体温に私の心臓は爆発しそうだ。

「き、桔平さん?」

 軽く振り返って彼を見る。

「俺から離れるのは禁止」

 拗ねたような顔でぼやかれ私はたじろぐ。

「あ、あの……でもせっかく私の勉強のために選んでくれた映画なのにこの状態だと集中できなくて。その、意識してしまって」
「意識? 俺を?」

 真顔で質問されて私は困ってしまう。こくりとうなずくと桔平さんはどうしてかすごくうれしそうな顔になった。

「そんなこと言われたら余計に離してやれなくなる」
「えぇ……」

 桔平さんに抱き締められたまま観る映画は悲恋のはずなのにいやに甘く感じた。エンディング音楽が流れ出すのと同時に彼が私のグラスに赤ワインを注いでくれる。
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