離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「わぁ、香りが濃厚。この匂いだけで酔いそうですね」

 彼は私にグラスを手渡そうとして、ふいに動きを止めた。自ら赤ワインを口に含むと、そのまま私の肩を抱き寄せる。

「え――?」

 口移しでワインが口内に注がれる。芳醇な香りと桔平さんの熱い唇、頭がクラクラしてなにも考えられなくなりそうだ。私の唇の端からこぼれた赤い液体を彼はぺろりと舐めた。

「どう、うまいか?」

(あ、味なんてわからなかった)

「き、桔平さん、もしかしてかなり酔ってますか?」

 彼はふっとかわいい笑みを見せる。

「そうだな。ワインは全然飲んでないけど……美紅に酔ってるかも」
「えぇ? なにを言って……」

 真顔になった桔平さんが熱っぽい眼差しで私を射貫く。

「本気だよ。さっきの映画、どんなストーリーだったのか全然覚えてない。美紅のことばかり見てた。真剣な顔がかわいいなとか、肌が白くて綺麗だなとか、映画の途中でキスしたら怒られるかな?とか」
「う、嘘……」

 映画に集中できていないのは私だけと思っていたけれど、彼も私を意識してくれていたのだろうか。そうだとしたらすごくうれしい。私の頬は無意識に緩む。
 コンと音を立てて桔平さんがワイングラスをテーブルに戻す。自由になった両手で彼は私の頬を包んだ。

「もう映画は終わったから……許してもらえるかな」
「桔平さ――」
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