離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 私はシックなモノトーンの壁掛け時計を見て慌てる。いつの間にかもう九時半だ。

「えっと、そろそろ片づけますね」

 お皿を持って席を立とうとしたけれど、彼に手で制止されてしまった。

「片づけは俺がやるよ。けど、その前に話があるんだ」
「は、はい」

 桔平さんはコックピットに向かうときのような真剣な顔をしている。私も表情を引き締めて彼の言葉を待つ。

「俺たちの結婚は政略結婚だ。君の叔父である慶一郎(けいいちろう)氏に我が社の社長に就任してもらうためのな」
「そうですね」

 きっぱりと言われてしまうとややショックではあるけれど……事実なので仕方ない。
 私たちの縁談が持ちあがったとき、桔平さんのお父さんはJG航空の社長で私の叔父である浜名(はまな)慶一郎は経営統括室の本部長を務めており社長の右腕と呼ばれる存在だった。

 叔父といっても私にはそれ以上の存在だ。十歳のときに車の事故で両親を亡くした私を引き取って育ててくれたのは慶一郎おじさんだから。
 四十七歳になった今も渋くてかっこいい彼は私の初恋の人でもある。

「俺が跡を継がないこともあって、父は慶一郎さんを後継者に望んだ」
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