離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「客に対してずいぶんと雑な対応だなぁ。ファーストクラスの客ならもっと丁寧なんだろ。JG航空は操縦は下手くそだし、CAは差別的だしひどい会社だ」
「そのようなことは決して――」

 この手のお客さまには説明するだけ無駄だとわかりつつも私は言葉を重ねた。フライトに支障が出ないよう、穏便に対応するのも仕事のうちだ。

「気分が悪い! もっとしっかり謝れよ」

 彼が振り払った手が私の目元をかすめる。かすかな痛みが走って私は顔をしかめる。そこに明るい声が割り込んできた。

「すみません。こっちに緑茶を分けてもらえますか?」

 尊だった。彼はさりげなく私の隣に来て小声でささやく。

「今だけ反対に回れ」

 迷ったが彼の言うとおりワゴンの反対側に回る。ひとりで対処できればそれがベストだが、そこにこだわって事を大きくしてほかの乗客に迷惑をかけるわけにはいかない。悔しいけれど、尊が現れたことで例の客は借りてきた猫のように小さくなっている。セクハラだった自覚はあるのか尊と目を合わせないように必死だ。私と尊は同期だけど彼を私の上司かなにかだと思ったのかもしれない。

 その後は大きなトラブルもなく無事に東京に戻ってこられた。

 デブリを終えた私はチーフに声をかける。

「今日は申し訳ありませんでした。自分で最後まで対応しきれず」
< 72 / 183 >

この作品をシェア

pagetop