離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます～旦那様は政略妻への恋情を止められない～

　尊の言い方がおかしくて私はふっと笑みをこぼす。すると尊はホッとしたように目を細めた。

「美紅の接客力の問題じゃないからさ、気にすんなよ。逆に俺は子どもの対応が苦手だから美紅はすごいなって感心して見てるし」

　尊の励ましがうれしくて私は素直にお礼を言った。

「本当にありがとう。尊に負けないよう私もがんばるね」

　照れくさそうに尊は笑ってそれから私の顔をじっと見た。いつもの彼とは少し違う真剣な目をしている。

「えっと、どうかしたの？」
「目元、赤くなってないか」

　彼は心配そうに私の顔をのぞく。

「あっ。さっきのお客さまが手を振り払ったときにちょっと……」
「えぇ?　大丈夫かよ。ていうか、そんなことされたならもっと早く」
「違うよ。これは本当にちょっと当たっただけでお客さまも悪意はなかったと思うし」

　これは嘘じゃない。いくら相手がお客さまでも暴力を寛容する気はない。

「でも、わりと目立つぞ。ちょっと見せてみろ」

　尊の手が伸びてきて私の目元に触れる。ヒリッとした痛みがあって思わず顔をしかめる。

「ほら、痛いんだろ。――あっ」

　驚いたような声と同時に尊の顔がこわばる。彼の視線は私をこえてもっと奥に向けられている。

「なにをしているんだ？」

　怒気をはらんだ声に私は振り返る。桔平さんがこちらに向かって歩いてきていた。彼は私の肩をグッと抱く。まるで尊から引き離すかのように。