離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 冷たい瞳で桔平さんは尊を一瞥する。

「人目のあるところで俺の妻に触れるな。おかしなうわさを流されたら困る」

 その台詞に尊はぴくりと眉を動かす。いつも明るい彼らしくもない形相で桔平さんにすごんだ。

「気にするのは周囲の目なのかよ。おかしなうわさならとっくに流れてるよ。大門コーパイは政略結婚の妻にはなんの興味もない、とかな」

 初めて聞く話で私は少し驚いた。

(そんなうわさをされていたんだ……尊や夕菜がやけに桔平さんとの関係を心配してくれていたのはそのせい?)

「あんた自身はどうなんだよ! 美紅が俺と一緒にいて気にならないのか?」

 尊はなおも突っかかる。挑発するような笑みを桔平さんに向けている。

「ちょっと、尊。どうしちゃったのよ」

 私が口を挟んでもふたりはにらみ合いをやめる気はないようだ。
 尊に鋭い視線を送ったまま桔平さんは吐き捨てる。

「君に……話してやる義理はないな」

 桔平さんも様子がおかしい。彼はこんな物言いをする人ではないのに。

「美紅、今日はもうあがりだろう。俺もだから一緒に帰ろう」
「あっ……」

 桔平さんは強引の私の腕を引きその場を離れる。尊にひと言、声をかける間も与えてはくれなかった。

(桔平さんも尊もピリピリして怖いくらいだった。どうして?)

 マンションに帰ってからも桔平さんは不機嫌そうな顔を隠さない。
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