離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 私たちはダイニングルームで立ったまま向かい合っている。

「あの、桔平さん。さっきのことなんですけど……」

 やましいことはなにもないけれど、たしかに知らない人が見たら誤解しかねないシチュエーションだったかもしれない。そのことは素直に謝ろうと思った。ところが謝罪しようとした私の言葉を遮って桔平さんは言う。

「形だけだとしても美紅はまだ俺の妻だ。不用意な行動はつつしめ」

 形だけ。その言葉に胸が締めつけられる。

(やっぱりそれが桔平さんの本音なのかな。ここから新しい関係を築いていけるかもというのは私の思いあがり?)

「――ごめんなさい。でも、私はともかく尊のことは誤解しないでください。彼は私の怪我を心配してくれただけで……既婚者になにかしようと思うような不誠実な男性ではありませんから」

(そもそも尊が私をなんて……ありえない)

 桔平さんは私からフイと目をそらす。にらみつけるように床を見つめている。

「そう思っているのは美紅だけだろう。君はなにもわかっていない」

 断定するような口ぶりに私も少しカッとなる。

「尊のことは桔平さんよりよく知っています」

 桔平さんはむっつりと押し黙ったままだ。黙り込まれるとよりいっそう責めたくなるのはどうしてなのだろう。

「そもそも……桔平さんも勝手ですよ。離婚前提と言ったのは桔平さんなのに、急に離婚をやめるとか。私は全然ついていけません!」
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