離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 ブリーフィングのためオフィスへと向かう途中で桔平さんにばったり出くわす。私より先に出勤した彼のお見送りもしたけれど、また顔を見ることができてうれしい。にやけた顔で私は彼に声をかける。

「桔平さん。今からミュンヘン便ですか?」

 朝、海外フライトだからしばらく帰宅できない旨は聞いていた。桔平さんは国内・国際どちらの便にも乗務するが最近は海外フライトが増えている様子だ。

「あぁ。美紅はどこだ?」
「今日の一本目は博多です」
「気をつけてな。ミュンヘンの土産はなにがいい? 今回はわりとステイ時間に余裕があるんだ」
「えーっと」

 ミュンヘンはドイツでは三番目に大きな都市で美しい街並みとビールが有名だ。名物もいろいろあるけれど私は迷わずに答えた。

「桔平さんが元気に帰ってきてくれることが一番のお土産です」

 パイロットの彼を心から尊敬しているけれど、長時間のフライトは体力的にもきついし責任も重い。彼を見送る瞬間はやはり不安も湧く。

(空の危険という意味では私も同じなんだけどね)

 桔平さんは柔らかくほほ笑む。

「ミュンヘンはとくに好きな都市なんだが……最近は東京が一番だ」
「そうなんですか?」
「美紅がいる場所が一番だから。これからしばらく会えないと思うと名残惜しいな」

 桔平さんはぐるりと周囲を見回すと素早く顔を近づけてくる。

「――え?」
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