離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 彼を見あげた私の唇に優しいぬくもりが落ちてきた。

「この続きは帰ってからたっぷりな」

 顔を真っ赤にして私は彼に訴える。

「しょ、職場でこんなことして。もし誰かに見られていたら――」

 アワアワする私に彼は不敵な笑みを見せる。

「誰も見ていないことは確認したから大丈夫だ。俺は視力には自信があるし」
「でもっ」

 白い歯がこぼれるような笑顔で桔平さんは言う。

「そんなにかわいい顔をされるとますます離れがたくなる。ほら、もう行け」

 桔平さんに背中を押され私は歩き出す。一、二歩進んだところで私は彼を振り返った。

「桔平さん! その、出発前に会えてうれしかったです」
「俺もだ。ずっと君を捜してキョロキョロしていた甲斐があった」

 大きすぎる幸せに私の顔は緩みっぱなしでフライト前にチーフから「熱でもあるんじゃないの?」と真剣に心配されてしまった。

 その日の業務は大きなトラブルもなく終わり私はロッカールームで制服を脱ぐ。

(今夜は桔平さんがいなくて寂しいけれど、帰ってきた彼がくつろげるように掃除とか作り置きのお料理とかがんばろうっと!)

 帰宅した彼とゆっくり過ごす時間を想像するだけでウキウキする。ひとりでにやけている私の耳に華やいだおしゃべりの声が届く。

「聞いて、聞いて!」
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