離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 ロッカールームに入ってくるふたりのCA。制服が完全になじんでいない彼女たちの雰囲気から後輩かな?と推測する。

「さっきのフライト、園部さんと一緒だったんだ。私がモタモタしてたらさりげなくカバーしてくれてやっぱり素敵だった」
「え~、いいなぁ。でも私はやっぱりパイロットとの社内恋愛に憧れる! でも素敵なパイロットはみんな奥さんがいるのよねぇ」

 彼女たちの話は他愛ないうわさ話なのだけれど、彼の名前が出たことに私はドキリとしてしまう。

(園部さんって尊のことだよね? 今日は出勤だったんだ)

 桔平さんと尊が険悪なムードになったあの日以来、尊には会っていなかった。連絡してみようかと思いもしたけれど今は桔平さんに心配をかける行動は取りたくなくて躊躇していた。

(もし会えたら尊にもきちんと伝えよう)

 私は望んで桔平さんの妻になった、だから心配はいらないと。
 その気持ちが通じたのかどうかはわからないけれど、従業員出入口から外に出たところで少し前を歩く彼の姿を発見した。

「尊!」

 振り返った彼は私の姿を認めてやや驚いたように目を見開く。

「……美紅」

 彼に駆け寄りながら私は言う。

「あの、この前は――」
「ちょっと話せる? 立ち話でいいから」

 彼とふたりきりでどこかの店に行くのはためらわれたので尊の気遣いはありがたかった。私たちは邪魔にならない場所にサッと移動してから話をする。
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