離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 沖野はあきれた顔で俺を見る。

「ほかの機体に医師が乗っていたってなんの意味も……」

 ないだろうと言いかけて言葉を止めた。俺の意図していることに気がついたのだろう。小林は沖野より察しが早く「もし見つかれば、倒れたお客さまをコックピットまでお連れします」とすぐに反応してくれた。

 幸いなことに通信可能な機体にスイス人医師が乗っており、無線対応での助言にこころよく協力してくれるとのことだった。
 俺は小林に指示を出す。

「英語が話せる医師が見つかった。彼が助言してくれるから、なんとか一緒に診てくれないかと研究職の医師に頼んでみてくれ」

 医療分野での研究をこころざす人間なら英語はなんの問題もないはずだ。

「かしこまりました」

 彼女は素早く踵を返す。

 こうして、ふたりの医師が連携して急病人の対応に当たってくれた。ミュンヘンの空港に着陸するとすぐに彼は専門の病院に運ばれた。
 俺は自信がないと言いながらも懸命に尽力してくれたまだ若い医師にあらためて礼を言う。

「ご協力いただき本当にありがとうございました」
「意識もあったので、おそらく命に別状はないかと思います」

 互いにホッと胸を撫でおろす。初めて会った相手なのにどこか戦友のような絆を感じていた。もちろん急病人などは出ないのがベストだが、こういう交流もパイロットの仕事の魅力のひとつかもしれない。
 彼は苦笑いで続けた。
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