離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 まるで俺とふたりでデートをしたかのような口ぶりだが他社のCAとデートをしたことなど一度もない。ニューヨークとDLC航空というキーワードで俺もようやく思い出す。たった今小林たちが開催しているのと似たような経緯で合同で食事会をしたことがたしかにあった。当時の俺はまだ副操縦士で大先輩の機長の誘いは断れなかったのだ。

「あぁ、あのときに君もいたのか」

 そう答えはしたが彼女と個別で会話などはしていないだろう。あの夜はずっと機長が遭遇したことのあるトラブルとその対処法を教えてもらっていたのだ。

「今回はふたりきりでディナーをしたいなと思って。私、お買いものもお手伝いしますし」

 さっきの俺と小林の会話を聞いていたのだろう。
 彼女の豊満な胸が俺の腕に押し当てられる。嫌悪感に思わず眉をひそめスッと彼女と距離を取る。

「俺は既婚者だ。悪いがこれで」

 身をひるがえそうとした俺を彼女はなおも引き止める。

(自信のありすぎる美人は苦手だ)

 だが、不思議と俺にアプローチをしてくる女性は彼女のようなタイプばかりだった。男が自分を拒むことなど絶対にないと思っている自信満々の女たち。
 なにがおかしいのか彼女はクスクスと笑う。

「大丈夫ですよぉ。奥さまには秘密にしといてあげますから」

 あまりの不愉快さに俺の顔は思いきりゆがむ。だがそれを気にも留めずに彼女は言う。
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