雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。


「安心しろよ、俺のバイト代から出すから。あ、普通のガソリンスタンドな。金の出処を確認するってことは、引き受けるってことでいいんだよな?」

「バイトを探してたのは事実だし、私に務まるなら頑張り……ます」

「ん、じゃあ頼むわ。瑠佳」

不意打ちで名前を呼ばれたことにより、顔の温度が急激に上昇する。

私はそれを暑さのせいにして、持っていた求人誌を使い風を送った。

この熱を一刻も早く冷ましたくて。


「瑠佳も俺のことは怜央って呼べよ。俺の姫なんだから蓮見くんはおかしいだろ」


これは姫役を求める蓮見怜央と、お金を必要とする私の利害が一致しただけ。

頭では理解している。

けれど、“俺の”なんて言われると、本当に彼の特別になったような気分だ。

「ほら、呼んでみろよ」

「れ、れ、れ、怜央」

「5点。うち帰ったら鏡の前で練習な」


その言葉のあと、片方の口角だけ上げて笑う怜央。

「今、笑ったでしょ!?」

「さぁな」

絶対、笑った。バカにした笑いだったけど。

「……家に帰ったら100回練習しよう」


こうして私は雇われの姫としての生活をスタートさせた──。

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