雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
《正門付近にいる》
その連絡がきたのは10分前のことだ。
昇降口で靴を履き替え走っていると、コソコソと話をしながら歩く生徒達の姿が目に入った。
多分、彼らの視線の先には怜央がいるのだろう。
…………やっぱり。
私の予感は的中。
壁にもたれながら、スマホを見ている怜央。横には一台のバイクが停めてあった。
「遅くなってごめん」
私が声をかけると、なぜか他の生徒達も振り向く。
平凡な女子が暴走族の総長に話しかける。その様子が不思議でたまらないのだろう。
「これ被れ」
注目されることに慣れているのか、周りの視線など一切気にしない様子の怜央は私にヘルメットを押し付けてきた。
「どこか行くの?えっ、もしかしてバイクに乗るの!?」
本来、校則で認められているのは一人乗りの原付のみ。
けれど、怜央のバイクは二人乗り用だ。
「私、バイク乗るの初めてなんだけど……落ちたりしないよね」
暴走族総長の後ろに乗るということに若干の恐怖を感じていると、手に持っていたヘルメットを奪われる。
「ご、ごめん。変なこと言って」
怜央は私の雇用主。
それなのに、余計なことを口走ってしまった。