雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
1時間程の会合を終えたあと、怜央は私を家の前まで送ってくれた。
「ただいまー」
「あ、姉ちゃんおかえり」
ドアを開けた途端、玄関まで届く生姜焼きの匂い。
その匂いに釣られるようにして、まずはキッチンへと顔を出す。
「志貴ごめんね。夕食当番代わってもらっちゃって」
水瀬家では平日は志貴が、休日は私が食事を作ることになっている。
今日は土曜日。本来なら私が夕食当番なのだが急遽、志貴に代わってもらった。
「いいって。俺はこのくらいしかできないし。それよりも変な要求とかされてないよな?番長に」
志貴は私が暴走族の元で働いてることを知っている。
今までのバイトと違い、姫という仕事はスケジュールが不規則だからだ。
ただ、詳細は伏せてある。
私の仕事内容は身の回りのお世話、家政婦のようなものだと伝えた。
「番長じゃなくて、総長ね。大丈夫。雇い主は優しくしてくれてるし。あ、そうだこれお小遣い」
私は鞄から茶封筒を取り出すと、その中から3,000円をテーブルの上へと置いた。
別れ際、怜央に渡された2日分の給料(7時間✕1,200円=8,400円)の一部だ。