雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
ピチョン、ピチョンと水の音が聞こえる。
キッキンからかな?
蛇口を閉めに行かないと。水がもったいない。
そう思って起き上がろうとするが、体に力が入らない。
「志貴……水、」
「ようやく目が覚めたか」
私に意識を取り戻させたのは、男の冷徹な声だった。
視界に映るのはコンクリートの地面と革靴。
そのことから私は今、寝転がっているのだと気づく。
手足は縛られているのかびくともしない。
多分、私はそこに立っている男に連れ去られたのだろう。
「あなた……誰?」
私がそう問いかけると男は私の服を掴み、無理やり体を起こした。
「俺のこと知らない?蓮見のお姫様」
声は聞いたことがないからわからなかった。
でも、その顔は──。
「狂猫の香坂」
冬馬くんに見せられた写真の男が目の前にいた。
「香坂さんな、」
その言葉と同時に彼は拳を振り上げる。
思わずぎゅっと目を瞑ると、乾いた笑いが聞こえてきた。
「いきなり暴力は良くねぇよな。でも、礼儀がなってないだろ。俺は18。君は16歳。そうだろ?水瀬瑠佳ちゃん」
俺はお前の個人情報を握っているとでも言いたいのか、わざわざ回りくどい言い方をする香坂。