雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
正直、なんの用であろうが私には関係ないし興味もない。
けれど、彼がこの教室にいる限り、物音一つ立てることさえも許されない。そんな空気が永遠に続くのだ。
だから、一刻も早く自分のクラスへと戻ってほしい。
ハイトを探す私のために。
そして、目の前でメロンパンを持ったまま固まる新那のためにも。
そんなことを思っていると、蓮見怜央が「なぁ、」と口を開いた。
これで平和な時間が戻ってくる。
……予定だったのだが、そうはいかなかった。
なぜなら、蓮見怜央が発した言葉の続きが「水瀬瑠佳いる?」というものだったからだ。
クラスメイト達の視線が一気に私へと集中する。
これでは『私が水瀬瑠佳です。』と言ってるようなもので、その直後、蓮見怜央はよそ見もせずにこちらへと歩いてきた。
「お前が水瀬瑠佳?」
「そう、です……けど、」
私が返事をすると、新那が目で何かを訴えてくる。
多分、『何かしたの?』そんなところだろう。
なんの覚えもない私は首を小さく横に振る。
高校に入学してから1年と1ヶ月が経過したが、蓮見怜央と話すのは今日が初めてだ。