雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
彼が煙草を吸ってる間にロープの隙間を確認する。
これなら……いける、かもしれない。
ロープで縛られた時の脱出法。
それも昔、教えてもらったことがある。
ただ、問題のはロープを解くまでの時間が確保できないこと。
ここで私が妙な動きをすれば香坂は不信に思うだろう。
一瞬でいいから、彼をこの場から遠ざける方法はないだろうか。
そうだ…………!
「あの、香坂さん」
「あ?」
「お手洗いに行かせてもらえませんか?」
「無理に決まってんだろ。我慢しろ」
「でも、」
「そもそもここに便所はねぇ」
「……じゃあ、せめて水の音を止めてきてくれませんか?」
「水の音?」
「近くから聞こえますよね?ピチョン、ピチョンって。その音聞いてたらますますトイレ行きたくなっちゃうんで」
「……ったく、しょうがねぇな。止めてきてやるから我慢しろよ」
香坂はそう言うと煙草を地面に捨て、踏みつけた。
そして音のする方へと歩いていく。
今だ。
習ったことを思い出しながらロープを緩めると、するりと両腕が抜けた。
そのまま静かに足を結んでいたロープを解き、立ち上がったその時──。
「脅し方が足りなかったか?」
数メートル先から香坂が私を睨みつけた。