雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
「どうして、あなたが……」
『さぁ?なんででしょう。ねぇ、瑠佳ちゃん。お兄さんとお話ししようよ。この前は邪魔が来たからゆっくり話せなかっただろう』
えらく上機嫌な香坂。
この電話は囮かもしれない。
そう思って周辺を見回すが、怪しい人物は見当たらなかった。
そもそも、今日は休日。
この辺りは人も多く、前みたいに堂々と連れ去るなんてできないだろう。
「話すことなんかありません」
『……本当に?そんな態度でいいの。今日の主役を返せなくなるよ?』
「……何言って」
『志貴くん。誕生日なんだろう』
その言葉に背筋が凍りつくのを感じた。
香坂は志貴を知っているだけじゃない。
香坂はもうすでに、
『早く志貴くんに会いに来ないと。おねーちゃん』
「志貴はどこ?手を出したら許さないから」
『相変わらず威勢がいいね。今から車が向かう。その車に乗って俺に会いに来い。もちろん一人で。誰にも助けを求めるなよ?』
「……言うとおりにする。だから、志貴には手を出さないで」
『瑠佳ちゃん次第かな。あ、余計な真似はするなよ?じゃないと隣の女の子も危ない目にあうかも』
香坂はそう言うと一方的に電話を切った。