雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。


隣の女の子。香坂は名前を言わなかったけれど、多分新那のことだ。


私のせいで志貴だけじゃなく、新那まで巻き込んだ。

悔しくて、でもどうしようもできなくて。


そんな自分に悔いてると、目の前で一台のワゴン車が停まった。

「乗れ。香坂さんのところへ向かう」

運転席から顔を出した男は要件だけ述べる。


到着の早さからして、この男はずっと私の後をつけていたのだろう。


私は逆らうこともできず、男の言う通り車へと乗り込んだ。

香坂の元へと向かう道中、男は私が話しかけても何も言葉を返してこなかった。

「降りろ」

目的地に着くと、行きと同じように要件のみを口にする男。

車から降りると大きな倉庫が目に入った。

ここが狂猫のアジトなのだろうか。

鞄には財布と怜央からもらった狼のストラップ。ズボンにはスマホ。

そして、手には誕生日ケーキ。

武装するものは何もない。

でも、大丈夫。

怜央が家に来るのは今から15分後。

家にいない私を不審に思って、狂猫の動きに気づいてくれるはず。

「ついてこい」

車から降りた男は倉庫の扉を開けると、中に入るよう顎で指示する。

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