雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
闇狼のアジトとは全然ちがう。
複数の香水が混じった匂いに、爆音で鳴り続ける音楽。
数十人の男達は煙草やスマホに夢中で、とても協調性があるとは思えない。
その群衆をかき分けると、一人ソファーに座る香坂がいた。
辺りを見渡すが、志貴と新那の姿は見当たらない。
「約束どおり誰にも言わず一人で来た。今すぐ2人を返して」
「弟とお友達ならあそこだよ」
香坂はそう言うと2階を指差す。
そこには手足を縛られた志貴と新那の姿が。
「ふ、2人は関係ないでしょ!」
私が香坂を睨みつけると、奥のプレハブのような建物から一人の女の子が出てきた。
私を舐め回すように見つめたあと、クスクスと笑う。
「関係はありますよ。だって私と志貴くんはお友達だから」
志貴とこの子が友達?
そう言われてみれば香坂に比べ幼い顔立ちをしている彼女。
けれど、本当に友達なら拘束などしないだろう。
「……あなた誰なの?」
「私、志貴くんと同じクラスの美李亜っていいます。はじめましてお姉さん」
志貴と同じクラスだと言う彼女は香坂の隣に座ると、クルクルと髪をいじりながら話を続けた。
香坂はその態度に何も口を出さない。