雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。


闇狼のアジトとは全然ちがう。

複数の香水が混じった匂いに、爆音で鳴り続ける音楽。

数十人の男達は煙草やスマホに夢中で、とても協調性があるとは思えない。

その群衆をかき分けると、一人ソファーに座る香坂がいた。

辺りを見渡すが、志貴と新那の姿は見当たらない。

「約束どおり誰にも言わず一人で来た。今すぐ2人を返して」

「弟とお友達ならあそこだよ」

香坂はそう言うと2階を指差す。

そこには手足を縛られた志貴と新那の姿が。

「ふ、2人は関係ないでしょ!」

私が香坂を睨みつけると、奥のプレハブのような建物から一人の女の子が出てきた。

私を舐め回すように見つめたあと、クスクスと笑う。

「関係はありますよ。だって私と志貴くんはお友達だから」

志貴とこの子が友達?

そう言われてみれば香坂に比べ幼い顔立ちをしている彼女。

けれど、本当に友達なら拘束などしないだろう。

「……あなた誰なの?」

「私、志貴くんと同じクラスの美李亜(みりあ)っていいます。はじめましてお姉さん」

志貴と同じクラスだと言う彼女は香坂の隣に座ると、クルクルと髪をいじりながら話を続けた。

香坂はその態度に何も口を出さない。
< 57 / 66 >

この作品をシェア

pagetop