「お嬢さんを俺にください!」

ユーヤのアパートは
ダンボールでいっぱいだった



そーだ
ユーヤもぉすぐ引っ越すんだ



「ごめん
今、片付けてる途中でさ…」



ダンボールをずらして
ストーブの前に私の場所を作ってくれた



「待って…
今温かくなるから…」



ユーヤが私を拾ってくれた日を思い出した

あの日もこうやってストーブをつけてくれた



「レーニャ、どこか行ってきたの?」



「うん…ちょっと…」



「なんかちょっとメイクしてるし…
あー、そっか…
クリスマスデートか」



これでも
さっきタクシーの中で落としたんだよ

デートなんかじゃないよ



言いたいのに寒くて口が動かない



「そのマフラーいいね!
俺こーゆーの好きかも…」



ユーヤの手が私の首元に伸びる



ユーヤの声

ユーヤの言葉

ユーヤの匂い

ユーヤの仕草



全部あの人とは違って
優しくて



「ん?どーした?レーニャ
ごめん、まだ寒いよな
もぉすぐ、今すぐ温かく…え…レーニャ?」



ユーヤの全てが優しくて



「え…泣くぐらい寒かった?」



溢れる



悲しくて辛くて切なくて
涙が出るんじゃない



なんだろう
この感情は



ユーヤの手が私の頬に伸ばされる



冷たくなった身体
冷たくなった心



ユーヤの温かい手が私を包む



「レーニャ、酒飲んだの?
ちょっと酔ってる?」



冷たくなった頬がユーヤの温度に馴染んでく



さっきの陽介の熱には
逆らうみたいに身体が冷たくなっていって
気持ち悪かった



「大丈夫?水飲む?
あ、水じゃ冷たいか
お湯沸かそうか?」



ユーヤは私を責めたりしない


いつも私を気遣ってくれて
いつも自分を優先しない



陽介と真逆の人



ユーヤの優しさが

ユーヤの全てが



愛おしい



「ユーヤ…」



「ん?レーニャどーした?」



「寒かった…冷たかった…

ユーヤが…ユーヤが、いい…」



ゆっくり手を伸ばしたら
ユーヤは優しく受け止めてくれた



好きな人の匂いが
優しく香る



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