「お嬢さんを俺にください!」

ん?
アパートの門の前に何かある


ゴミ?
こんなところに捨てるなよ



ん???
人?



いや、まさか

こんな雪の日に



じゃあ、なに?



つま先でそれをそっと蹴った



雪が落ちて
髪の毛みたいな…

え、人形?



動いた!?

え!やっぱり人



「怖!」



薄茶の長い髪にまた雪がのる

膝を抱えてしゃがんでる



「あの…?」



「…」



応答なし



え…まさか

死んでる?


殺人事件!?


まさか



「あのー…大丈夫…?」



塊がゆっくり動いて
白い息が空に上がった



生きてた!



冷たい雪の中で目が合った



「こんなところで、なにして…」



その塊は
見たことがないくらい綺麗で

俺を見て
優しく微笑んだ

気がした



綺麗な人形…

じゃなくて
人形みたいに綺麗な女性だった



「こんなところで寝てたら死ぬだろ」



女性に降り積もった雪を払ったら
ドレスみたいな服を着てた


お姫様?

やっぱり人形?

AIを駆使したロボット?



や、そんなわけ…

キャバ嬢か


『雪の日に酔い潰れたキャバ嬢』


それで腑に落ちた



「警察呼ぶ?」



「…」



女性はまた俯いて膝を抱えた


細くて白い手首が
赤くなってるのが気になった


ケガ?



「警察じゃなくて救急車の方がいい?」



「…」



オイ!

答えないなら無視して
アパート入るけど


けどそしたら
この人死ぬかも…


新年早々
事件とかヤダけど



「とにかくとりあえず、俺も寒いんで
ここ、俺のアパートなんで、中に…
立てる?」



手を差し出すと
塊からゆっくり手が伸びて
俺の手に掴まった


冷た!


セルロイドみたいに固まった指先は
ホントに人形みたいで

指先がキラキラしてた



「大丈夫?」



「…」



綺麗なドレスみたいな服は
雪の日には薄すぎる装い


それから手首のアザ


訳ありだな


大丈夫なわけない



「歩ける?」



俺の手に掴まって
ゆっくり歩く女性


足元はヒールでバランスを崩しそうになる


こんな日にどこから来たんだ?



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