偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

〜Prologue〜


 都会の煌びやかな摩天楼を見下ろすことのできる、広くて豪奢なホテルの一室。

 その中央にドンと存在感を鼓舞するように設えられている、キングサイズのベッドの上で、妖艶に絡み合う一組の男女がいる。

 語弊があってはいけないので先に断っておく。これはあくまでも、古くさい概念を持つ者からすればの話だが。

 見かけは少々普通とは異なっている。

 だが、生物学上でいえば、ふたりは確かに男と女である。

 互いに少々訳あって、偽っているだけのこと。

 ゆえに諸々において非常に面倒な事態になってしまっている。

 この夜、いつものように馴染みのBARで友人とカウンター席に並んで、美味しいカクテルを味わいながら愚痴を零していたはずが……。

 かなり落ち込んでいたのもあって悪酔いしてしまったせいだろうか。

 ーーきっとそうに決まってる。

 優しく介抱してくれていた友人に肩を抱かれて、このホテルへと連れ込まれてしまったのだ。

 そのうえ、彼と交わす甘美なキスと、丁寧かつ甘やかな愛撫とに酔い痴れながらも、内心では大いに焦っていた。

 ーーあれ? 全然、嫌じゃない。それどころか、もっともっと触れてほしい。

 なんてことを思ってしまう自分に対してもだが、相手に対してもだ。

 ーーあれれ? 男の人にだけ欲情するんじゃなかったの?

 そんなことを頭の片隅で思考していられたのは、まだ余裕があったからだ。

 がしかし、そんな余裕はすぐに霧散してしまう。

 甘やかなキスに酔い痴れているうち、キスがどんどん濃厚さを増してゆく。

 気づけば、身につけていた衣服は乱れに乱れていた。

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