偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
※作中失礼します。
すみません💦前々回ページ重複していたので差し替えてます。


 やがて涙が落ち着いた頃、恋の左手の薬指にそっと口づけた秀に指輪を嵌めてもらってからも、どうにも離れがたくて、ふたりは寄り添い合ったままでいた。

 夢のような幸せなひとときだったものだから、指輪の感触と重みとを感じながらも、これは夢なんじゃないかと心配になるほどだったが。

 これは夢じゃなく現実なんだと恋に言い聞かせるかのように、頭頂部やこめかみ、額に頬にというように、秀は絶えず甘やかなキスを降らせ続けてくれていた。

 そんな夢のようなひとときを経て、遊園地を後にした恋は、秀が事前に予約してくれていた、高級ホテルの高層階にあるスイートルームへと赴いている。

 仮住まいのホテルもそうだが、秀とこういう関係にでもならなければ、一般庶民の恋には一生無縁の場所だっただろう。

 夢のようなプロポーズからの非現実な空間に、なんだか夢の世界にでも迷い込んでしまったかのよう。

 ベージュを基調とした壁には、美術館にでもありそうな絵画まである。

 迎賓館のような豪奢な部屋に一歩脚を踏み入れるなり、恋は圧倒されてポカンと立ち尽くしていた。

 棒立ちの恋は秀に背後から抱きしめられると同時。口端をゆるりと吊り上げた秀から、一緒にお風呂に行くかと意地悪な提案をされ真っ赤にされたが、結局は冗談だと言った秀に促されるままに入浴を先に済ませた。

 恋は肌触りのいい上質なバスローブに身を包み、ラグジュアリー感満載なリビングルームで、アンティーク調のソファの隅にちょこんと座り、緊張の面持ちで、入浴中の秀のことを待っているところだ。

 秀は無理しなくてもいいと言ってくれてはいたが、恋自身、秀と想いが通じ合ったのだから、もっと深い絆で結ばれたいという想いがある。

 秀とならきっと大丈夫。恋は心の中で、呪文のように繰り返しそう唱えていた。

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