偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
そこへ、このままハピエンなんかにさせるかというように、思いがけない邪魔が入った。
担当患者を抱えている秀は職業柄、スマートフォンを片時も手放せない。今もベッド脇のチェストにスマートフォンを待機させている。
そのスマートフォンがブルブルと震えだしたのだ。
同時に、恋の身体の上で秀の動きがピタリと止まって、恋のことを情けない表情で見つめてくる。
秀と顔を見合わせた恋がスマートフォンに目を向けるも、チェストの上で小刻みに振動しながら着信を知らせるスマートフォンの動きは止まりそうにない。
秀は、お預けを食らってしまったワンコのような表情でキリリとした眉を垂れたままだ。
「私のことは気にしなくていいから、出て」
「……」
「駄目だよ、急患だったらどうするの」
「……わかった」
拗ねた子供のように嫌だという表情を決め込んでいたが、恋の言葉でようやく身体を起こした秀は画面を確認し、あからさまにシュンと項垂れたままバスローブを身に纏いはじめる。
その背中をぼんやりと見つめていたら、ふいに肩の辺りにミミズ腫れになっている傷が目に入った。
ちょうどそこに振り返ってきた秀と視線がかち合い、なぜか聞いてはいけないような気がして。恋はさりげなく視線を逸らすと手早く身支度を整え、電話を終えた秀と一緒にホテルを後にした。
担当患者の急変により秀は職場に直行することになったようで。恋は病院に向かう途中で仮住まいのホテルへと送り届けられ、結局その日はひとりですごすこととなったのだが。
中途半端に高められたせいか、寝付けなかった恋は、身体に残る秀の温もりと匂いとに包まれながら悶々とした夜を過ごした。
そんな恋の頭の中には、秀の肩にあった傷跡の残像が浮かんでいつまでも消えることはなかった。