偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 ーー今夜、ようやく秀と。うわぁ! なんか急に緊張してきちゃった。

 不意に壁時計に目を向けると、式まで四十分以上ある。

 そこで恋は、式の前に父が控え室に顔を出すと言っていたことを思い出す。

 気になってスマートフォンのメッセージアプリを確認すると、父から五分前に到着したというメッセージが届いていた。

 けれどもそれから十分が経過しても、待てど暮らせど来る気配がない。

 ーーもしかして迷ってるのかな?

 海辺の大きなチャペルなので、部屋数も多く、廊下も入り組んでいて、初めてだと迷いやすいかもしれない。方向音痴なら確実だろう。

 実は、父は方向音痴なところがあって、その遺伝子を恋も引き継いでいる。なのでそういう勘はよく当たるのだ。

 秀は恋の花嫁姿を式まで見るのを我慢すると言っていたから、ここには顔を出さないはずだ。まだ式まで時間もあるし、少しくらいなら大丈夫だろう。

 恋はふわりとしたウェディングドレスの裾を持ち上げて立ち上がると控え室をそうっと抜け出した。

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