偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
そうして広い廊下を曲がって数メートルという場所で女性の明るい声が背後から聞こえて、何気なく振り返る。
「恋ちゃんには悪いけど、青山が派遣会社に手を回してなかったら結婚なんてできなかったと思うし。秀だって、過去のことがあるせいで、長年想い続けてきた恋ちゃんに気持ちを伝えられなかっただろうし。結果オーライよね」
そこにちょうど廊下の角を曲がってきたふたりとの視線が振り返った恋の姿を捉えた刹那。真っ青の顔で凝視している青山の隣で、親族と思しき女性が『しまった』というような表情で口元を手で塞ぐ様が視界に飛び込んできた。
ーーど、どういうこと? 派遣会社に手を回したって。過去のことがあるせいでって。長年想い続けてきたって。どういう意味?
心の中で復唱してみて、これまでのことが仕組まれたことだったのだと悟った恋は、茫然と立ち尽くすふたりから逃げるように駆け出していた。
そうして元いた新婦控え室まで辿り着いた恋は、鍵をかけて閉じこもる。同時に、ドアを物凄い勢いで叩く音が響き渡った。その音に混じって。
「誤解です。お開けください!」
「恋ちゃん、私、秀の従姉妹の文です。誤解を解きたいから開けて。お願い!」
青山と文と名乗る女性から何度も呼びかけられたが、今の恋には対応する余裕なんてない。
ドアに背を預けてズルズルとその場にしゃがみこんだまま動けずにいる。