偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
ーーそんなもんなんだ。それくらいの気持ちなんだ。自分はこんなにもショックを受けているというのにあんまりだ。
そう思ったら腹立たしくなってくる。
カッと頭に血が上ってしまった恋はすっくと立ち上がり、ドアを勢いよく開け放っていた。
正面に、華やかなシルバータキシード姿の秀が姿を現した瞬間、胸に抱き寄せられて身動きがとれなくなる。
別に強い力で強引に抱き寄せらた訳でもない。秀が今にも泣き出してしまいそうな、悲しげな顔をしていたからだ。
ーーどうして秀がそんな顔するのよ? 泣きたいのはこっちの方だ。
「ヤダッ! 放して! 私が嫌って言ったらやめちゃえるくらいの気持ちでしかないクセに。もう、嫌ッ!」
秀の腕の中でジタバタしてもビクともしなくて、余計に悔しくなってくる。
口でも秀のことを拒絶する言葉を放っているのに。それなのに……。
心の片隅では秀のことを信じようとしている自分がいて、秀のことを完全に拒絶しきれないでいる自分が不憫でならない。
情けなくて涙が込み上げてくる。必死で堪えようと奥歯を噛みしめたとき、聞き慣れた声が割り込んできた。
「恋、違うんだ。秀くんは何も悪くない。結婚したいなら恋には黙っていてほしいって、父さんが頼んだんだ」
「ど、どういうこと? 訳わかんない」
何がどうなっているのか理解が及ばず頭の中がグチャグチャだ。
もはやこの感情をどこにぶつければいいのかわからなくなって、秀の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らすことしかできなくなっていた。