偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 散々泣いたら泣き疲れてきて、いつしか控え室のソファに隣り合って座っている秀に肩を抱き寄せられていた。

「落ち着いたか?」

 優しい声をかけられてもコクンと頷くことしかできないでいる。

 秀は恋の肩をぎゅっと抱き寄せるとゆっくりと話し始めた。

 驚くことに、秀とは小学生の頃に出会っているのだという。

 秀の母親と恋の母親は同じ事故に巻き込まれた犠牲者だったらしく、藤花総合病院に搬送され駆けつけた際に居合わせていたらしい。

 恋の母親は即死。秀の母親は搬送時にはまだ息があったが結局は脳死状態になったのだという。

 秀は、父親が脳外の専門医だったのに、母親を救えなかったことでショックを受けていて、ちょうど中学生の多感な時期も重なり父親を避けるようになった。

 そんなとき、父に連れられて病院へと訪れていた恋と廊下でぶつかり、秀は何も言わず立ち去ろうとしたのを恋に厳しく咎められたらしい。

「人にぶつかったときはごめんなさいって言わなきゃ駄目でしょッ! お兄ちゃんなのに、そんなこともわかんないの?」
「わ、悪かった」 
「偉そうだし!」
「ご、ごめんなさい」
「よく言えました。はい、これ、ご褒美」

 謝り直した秀にそういって恋が手渡したのが、母の好きだったカンパニュラの可憐なブーケから抜き取った一輪の白いカンパニュラだったそうだ。

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