偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
「うん、秀がいてくれたら大丈夫みたい」
恋がニッコリと微笑んでみせると、秀は今度こそ心底安堵したように息を吐き、「よかった」と声を震わせる。
おそらく自衛本能だろうと思うが、長年心の奥底に封印していた記憶と一緒にあの頃の淡い恋心を思い出した恋は、そのことを秀に伝えるために声を紡ぎ出した。
「私こそ、ごめんね。今の今まで忘れてて。あのとき、秀がお母さんみたいにいなくなっちゃうって思ったの。だって大人になったらお医者さんになった秀のお嫁さんになりたいって夢見てたから。だから秀のお嫁さんになるのすっごく嬉しい。あっ、でも予定の時間過ぎちゃってるね。ごめんね」
「貸し切りなんだし、そんなのどうとでもなる。それより、こんなときに、そんな可愛いこと言うなんて、反則だろ。俺がどれほど我慢してきたと思ってるんだ。今の俺があるのは恋のおかげだ。恋と出会ってなかったら医者になんてなってなかった。それくらい俺は、恋のことを愛してるんだぞ。もう一生離さないからな。一生俺だけのものだ」
恋が秀に贈った愛の言葉は、何百倍、何万倍にもなって秀から贈りかえされる。
そんなやり取りを幾度も繰り広げ最後には、どちらからともなく甘やかな口づけを交わしていて。夢心地で甘やかなキスに酔い痴れながら、恋は初恋相手である秀と心から結ばれた喜びを噛みしめた。
秀の言葉通り、式場は貸し切り状態だったので、涙で崩れてしまっていたメイクも元より綺麗に直してもらって、心の底から晴れやかな気持ちで挙式に臨むことができ、親族に見守られる中、秀と恋は神様の前で永遠の愛を誓い合うことができたのだった。