偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 それは不慣れな恋の心を優しく癒やすようでもあり、恋の中に眠っていた雌としての本能を呼び起こしているようでもあった。

 そのうち恋は、言葉ではどう説明していいかもわからないが、どうにも堪らない心地になってくる。

 その頃には、腔内には、どちらのものかも判然とはしない互いの唾液が溢れかえっていた。

 豪奢なホテルの一室には、ふたりの熱い息遣いと、ピチャクチャ、と艶めかしくも夥しい水音が響き渡っている。

 どんどん深まっていく口づけの狭間で今にも溺れてしまいそうだ。

 不安感と一緒に気づかないうちに募っていた未知への恐怖心がそうさせるのだろうか。

 それともただ酔っているせいでそうなってしまうのだろうか。

 自分のことなのにそれさえもよくわからないまま、恋は無意識にカレンの胸もとにぎゅっと縋りつくようにして抱きついていた。

 すると、それまで夢中に恋の咥内を余すことなく蹂躙し尽くすようにして、無心になって貪っていたカレンの動きがふいにやんで。

「……恋……ちゃん」

 ハッとした表情をしたカレンから紡がれた、思いの外優しげでそれでいてどこか頼りなさげな声音が恋の耳朶を打つ。

 何だか胸をぎゅっと締め付けられるような心地がする。

 その声には、恋を気遣う優しさと、どこか悲しげな色が滲んでいるように聞こえる。

 カレンの形のいい唇から今にも『ごめんなさい』と謝罪の言葉が零れ落ちてきそうだ。

 ただ酔っているせいで、そんなふうに感じてしまっただけかもしれないけれど。

 なぜだかこのときの恋には、そう思えてならなかった。

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