偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 するとそこには、なにも纏っていない胸のあわいに、気持ちよさげに顔を埋めて、すやすやと寝息を立てて寝入っている、カレンの無防備な寝顔があった。

 驚きすぎて、一瞬、心臓が停まったかと思ったほどだ。

 大きな声で叫ばなかった自分を褒めてやりたいくらいだが、今はそんな悠長なことをしている場合ではない。

 ーーええ!? ど、どういうこと? どうしてカレンが? そんなことより、どうして裸なの?

 寝起きにとんでもない光景を目にしてしまった恋は、もう何が何やら大パニックだ。

 昨日の記憶を辿っているような冷静さなど全くなかった。

 その場でカッチーンと音が聞こえてきそうなほど硬直して、混乱する頭を抱えていることしかできない。

 つとカレンが綺麗な寝顔を微かに歪ませたかと思ったら瞼がパチッと開き、カレンの寝惚け眼と恋のそれとがかち合った。

 その刹那、嬉しそうに寝起きらしからぬ爽やかな笑みを浮かべて、微かに掠れた低い声音で囁きかけてくる。

「恋、おはよう」

 しかも呼び捨てだ。いつもは『恋ちゃん』呼びなのに。

 それだけでも驚きだというのに……。

 何がそんなに嬉しいのか、はしゃいだ様子のカレンによって、むぎゅぎゅうっと抱き竦められてしまい。密着している互いの素肌を通して、あれこれが生々しく伝わってくるものだから堪らない。

 ーーちょ、ちょっと待って。これってもしかしなくても、カレンのアレってことだよね? キャー!

 恋愛経験が皆無などころか、身近な異性と言ったら父だけだ。当然異性への免疫など微塵も持ち合わせちゃいない。

 パニック映画も真っ青なくらいの、大パニックだ。

 
< 33 / 124 >

この作品をシェア

pagetop