偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
ーー寝起きなのに、綺麗。髭とか生えないのかな? それにどうしてこんなにも色っぽいんだろう。
カレンに見蕩れているうち、自分の置かれている状況も失念して、心の中で実に呑気なことをのたまっていた。
そんな中、気怠げに放たれたカレンの言葉ではじめて、恋は大事なことに気づく。
「そんなに警戒しなくても、朝っぱらから襲ったりしないから安心しろ。それより、男に触れられても平気なんだな。昨夜も大丈夫そうだったし。だったらあのまま躊躇せず全部もらっとけばよかったな」
なので、後半に独り言ちるように放たれた、物騒な台詞は恋の耳には届かなかった。
ーーそ、そういえば、カレンとあんなにも密着していたのに、なんともない。なんで? どうして?
カレンからの言葉によって、自分の身体に本来ならば現れるであろう、ある反応がないことに、恋は驚くとともに、大きな衝撃を受けていた。
「ウソ、どうして?」
開いた両の掌を眼前で掲げて凝視し、右腕左腕と順を追って隈なく確認していく。
何も身に着けていない胸もとや腹部、脇腹に脇の下、というように視線を巡らせても、何の変化も見受けられない。