偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
たとえ、これまで生きてきた二十八年間の中で、一度として彼氏ができたことがなかったとしてもだ。
子供の頃は、絵本の主人公であるシンデレラに憧れたものである。
いつか、白馬に乗った素敵な王子様が迎えに来てくれるのではないだろうか。
アラサーの仲間入りを果たしたこの歳になって、さすがにそんな痛いことを夢見ている訳ではいないが。
それでもいつか素敵な男性と結婚し幸せな家庭を築けたらな。ということくらいは夢に見てはいた。一応女子なのだから当然だろう。
だがこのままでは、これまで夢見ていたものが泡沫の夢となって、あぶくとともに無残にも霧散してしまいそうだ。
恋は盛大な溜息を垂れ流すと同時、頭を抱え込んで眼前のカウンターへと突っ伏し項垂れた。
そうしたら隣で、お高いブランデーが揺蕩う波間に浮かぶクリスタルのように綺麗に削られた球状の氷が煌めくグラスをカランと小気味いい音色を奏でつつ、優雅に傾けていたはずの友人がカウンターにグラスを置く音がして。
その音が店内に静かに漂っている洋楽に掻き消されるよりも先に、どこからどう見ても女性にしか見えないが女性にしてはいささか節くれ立った、それでも綺麗な手で恋の肩を優しく揺すってくる。
「ちょっと、恋ちゃん。大丈夫? こういうときこそしっかりしなさいよね」