偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
はじめは恋の柔らかな唇の感触を味わうように幾度も啄み、いつしか微かなあわいから熱い舌が差し込まれ、やがて咥内を蹂躙し尽くすかのように、くちゅくちゅと縦横無尽に掻き乱す。
背筋を甘やかな痺れと一緒にゾクゾクとした不可解な感覚が駆け巡る。
どんどん深さを増していく濃厚な口づけに思考は蕩かされ、息継ぎさえもままならなくなっていく。
今にも溺れてしまいそうだ。
ーー息が苦しい。このまま死んじゃうのかな。
なんてことが頭を過った刹那。
どこからともなく湧き上がってくる、得体の知れないものへの不安や恐怖心にも似た感情が恋の頭の中を支配する。
それらが呼び水となって、忘れかけていた黒い影が忍び寄ってくる。瞬く間に大きな翳りとなって何もかもを覆い尽くしていく。
「ヤダッ、怖い」
気づいたときには、カレンの胸を必死になって両手で押し返していた。
「クソッ、昨夜は酔ってたせいだったのか」
カレンの悔しげな低い声音が聞こえたような気がしたが、今はそれどころではない。
恋は、己を支配しようとする負の感情から何とか逃れようと、目をぎゅっと強く閉ざして、ガタガタと震える身体を縮こめることしかできずにいる。