偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 そんな恋の身体をカレンは優しく包み込むようにしてふわりと抱きしめながら。

「恋ちゃん。怖がらせてごめん。もう男じゃなくて、いつものカレンに戻ったから、安心して。もう何もしないから。ね? お願い。恋ちゃん、落ち着いて」

 幾度も幾度も背中を撫でつつ、いつものお姉口調で優しく声をかけてくれていた。

 カレンのあたたかなぬくもりと一緒にカレンの優しさが身体を通して伝わってくるようだ。

おかげですぐに恋は落ち着きを取り戻すことができたのだが、ある疑問が浮上する。

 恋は、幼い頃に男性恐怖症になった。といっても恋にはそのときの記憶がないのだけれど。

 あの頃は、若い男性を見るだけでも怖かったのだが、大きくなるにつれ、症状は軽くなっていった。

 だが一年前、ある体験をしたことで、男性に触れられると精神的なストレスを生じ、蕁麻疹を出すようになってしまった。

 不思議なことに、たまたま居合わせ助けてくれたカレンに対しては、恐怖心を抱くことはなく、いつしか親友として接するようになって、今に至る。

 おそらくそれは、女装男子であるカレンの見た目が女性だったのと、お姉口調のおかげで、男性として意識しなくて済むからだと思っていた。

 これまでカレンに直接触れられたことは一度もなかったものだから、そう思い込んでいたのだ。

 それなのに……。いくら酒に酔っていたせいだといっても、確かにカレンに触れられたし、記憶は曖昧だけれどどうやら最後までは致してはいないようだが、ほぼそれに近いことだってしているはずなのに。平気だったなんて。

 今だってそうだ。

 昔体験した恐怖心を思い出して怖かっただけで、身体は何ともない。

 ーーやっぱり、私にとってカレンは稀有で特別な存在なんだ。

 恋は、カレンの爽やかなシトラスの香りとぬくもりとに包まれながら、そのことを改めて確信していた。

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