偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 よく小説で青天の霹靂などというが、まさにそれ。

 足元から竜が上がる、煙が出る、ということわざにもあるような、そんな突拍子もない状況なのだ。

 ーー驚くのも当然だ。

 悪酔いしてしまった恋を介抱するために、仮住まいであるこのスイートルームに連れて来て、介抱しているうち、恋がカレンを母親と間違って甘えてしまったがために、こういうことになってしまった。という説明を受けたばかりだ。

 そして、これまでカレンが異性に恋愛感情を抱けないことを思い悩み、ゲイだと結論づけてきたのだという。

 だが、恋に対して欲情したのだから、ゲイではないらしいことを確信したらしい。

 女装とお姉口調に関しては、人の生き死にを左右するという、ストレスフルで多忙を極める医者という職業柄、それを払拭するための気晴らしなのだという。

 それも週末の夜限定。

 そのため今は、爽やかなイケメンに似合いそうな、シンプルなシャツにパンツを合わせたラフは格好だが、男性恐怖症である恋を気遣って、ウィッグはそのままにしてくれている。

 けれど、ノーメイクなのにきめ細やかな肌は白いし、うる艶で、このままでも充分女性で通りそうなのだから、何とも羨ましい限りだ。

 どうして男性恐怖症だと知っていたかの問いには、『そんなの医者なんだから、当然だ』やけに自信たっぷりに答えてくれた。

 ーーへぇ、さすがお医者様。そんなことまでわかっちゃうんだ。

 感心した恋があっさり納得しかけていたところに、突然空から降ってきたかのような吃驚発言だったのだ。

 驚かない方がどうかしていると思う。

「ーーはっ!?」

 驚愕のあまり、恋は裏返った声を放ったまま、ポカンと開いた口が塞がらないという何とも間抜けな顔を晒していた。

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