偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
ーー何? この胸の痛みは。
カレンからの提案と不可解な胸の痛みに、恋は戸惑うばかりだ。
「……お互いの利益のための結婚、なんて言われても……」
口からも戸惑いの音が漏れていた。
そんな恋のことを存外優しい甘やかな眼差しで見遣りつつ、テーブルに身を乗り出してきたカレンがそうっと頬に触れてくる。
あたかも困惑しきりの恋のことを宥めるように、頬を優しく撫でるものだから、あまりの心地良さにうっとりしそうになる。
カレンの綺麗な相貌をぽーっと眺めていると、優しく言い含めるように囁きかけてくる。
「そう難しく考えるな。俺は後継者としての責任を果たさなきゃならない。そのためにも結婚は不可避だ。恋だってそうだろう? いつも言ってたよな。『お父さんをはやく安心させてあげたい。そのためにも仕事がんばらなきゃ』って。入院中の父親に、事故が原因で派遣切りにあったなんて言えないだろ」
「でも、だからって、お父さんを騙すようなことできない」
恋が何を言っても、即座に、やけに熱っぽい口調で、もっともらしい言葉を返されてしまう。
「騙すんじゃない。俺は元来、人見知りで、異性にだけでなく、他人と関わるのが苦手だ。けど恋となら苦でもなんでもない。結婚するなら恋しか考えられない。恋だって、俺になら触れられても平気だったんだ。お互い唯一無二の特別な存在なんだから問題ないだろう」