偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
「お互いの利益のための契約結婚なら、恋だって気が楽だろ。どうしても嫌だっていうなら、いつでも離婚すればいい。俺だって、唯一無二の特別な存在である恋のことを、紙切れ一枚で縛り付けるようなことはしたくないしな」
カレンに唯一無二の特別な存在だと言われて、嬉しいとさえ思ってしまっている。
けれど何だろう。
胸の中でぐるぐると蠢いてスッキリとしない、この妙なモヤモヤは。
あたかも霧が立ちこめている森にでも迷い込んでしまったかのような心境だ。
そんな心情が表情にも表れてしまっていたらしい。
それを何とか払拭しようとでもするかのように、カレンはいつものお姉口調ではなく、落ち着きのある穏やかな低音ボイスで優しく宥めるようにして、なおも囁きかけてくる。
「そんなに心配しなくても、これまで同様、恋のペースに合わせるし、無理強いもしない。子供のことだって、恋がその気になってくれるまで待つつもりだ。だから、安心してほしい」
結局は、ギリギリまで追い詰められているような状況下に置かれ、断るという選択肢などなかった恋は、カレンからの提案を受け入れるしかなかった。
この状況を言葉で表すなら、崖っぷちに立たされて、退路を絶たれた恋のことを助けてくれる、神様もとい俺様降臨といったところだろうか。
この判断が正しいかどうかはわからないけれど、とにもかくにも、こうして女装男子であるカレン改め俺様との交渉が成立したのだった。