偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
自慢ではないが、藤堂家は代々医師の家系で、父の渉《わたる》は脳外科の権威と言われ、日本で五本の指に入るほどの名医として知られている。
その血を受け継いだおかげでいずれは神の手になるだろうと嘱望されているのだ。
医療過誤などという、ヘマなど犯したこともないし、未来永劫起こすとも思えないが、もし犯したときにはこんな心情なのだろうか。
ーー恋に変態などと思われた日には、それと同等、否、それ以上のダメージだ。
そうならなかったのも、元々楽観主義者で、天然なところのある、アラサーなどと思えぬほどに、初心で可愛らしい恋の気質様々だ。
まだ幼かった恋は覚えていないだろうが、長年恋い焦がれてきた相手である恋と、何とか結婚までこぎ着けた。
けれども恋のことを騙しているーーという罪悪感が拭いきれずにいる。
それを長年の腐れ縁でもある文が、口が悪いうえに辛辣ではあるが、面白おかしく弄りながらも慰め、叱咤激励してくれているのだった。
そうであってほしい。という願望もあるが血縁である従姉妹なのだから、そうであるに違いない。
本業は秀と同じ医者だが、コミック冊子を創るのが生き甲斐な同人作家という二足のわらじを履く、少々風変わりな女ではあるが悪い奴ではない。