偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
秀が初めて女装したのは、ちょうど一年前。十一月も半ばを過ぎた晩秋。クリスマスシーズンが待ち遠しい季節。日を追う毎に秋から冬へと移ろいゆく街並みを冷たい風が吹き抜けていた。
恋が男性恐怖症であることを知っていた秀が危険な目に遭いそうになっている恋のことを目撃し、助けに行こうにも行けずにいた。
行ったところで、男性恐怖症である恋を余計に怖がらせるだけかもしれない。もっと症状を酷くさせてしまうかもしれない。
そんな懸念が秀の頭を占めていたせいだ。
その際に、今のようにたまたま傍にいた文に、これまた偶然にも取材のために所持していたという、女装男子変身セットなるものを渡されたのが発端だった。
恋のことを怖がらせないためにも趣味だと伝えたが、生まれてこの方、そんな趣味はないし、男になんてこれっぽっちも興味はない。
恋と親友として過ごしてきたこの一年もの間、苦行を強いられている修行僧のような心地だった。
よくここまで堪えられたものだと己を褒めてやりたいくらいだ。