偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 けれども相手は酔っ払い。

 なにより、多忙な上に、過酷な労働環境で日々戦っている医師には、冷静さと忍耐強さが必須だ。

 それでなくとも秀は、恋と一夜を共にするというビッグチャンスを前に、酔った恋を自分のものにしてしまうことに躊躇し、悶々とした一夜を明かしたくらいの、鋼の忍耐と理性の持ち主である。

 文からすれば、ただのバカだろうが、そういう理性の持ち主である秀には、造作もないことだと思われた。

 これしきのことでいちいち目くじらを立てていたのでは、医者など務まらない。

 そう心得てはいるのだが、所詮は医者も人の子。

 少しぐらい感情を露わにしたって罰は当たるまい。

 半ば開き直ってしまった秀は、苛立ちに満ちた反論を試みる。

「黙って聞いてりゃ。お前、俺のことを何だと思ってるんだ」

「だから、ストレス発散の万能アイテムだってば。ついでにネタにもなりそうだし。もうすぐ親戚になる恋ちゃんには黙っといてあげるから、ネタの提供よろしく頼むわよ。俺様鬼畜の変態さん」

「……」

 結局は、無残にも返り討ちに遭うことになったのだった。

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