偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
数時間前のことを思い返していた秀の思考に、ほろ酔い状態の文から間延びした声音が割り込んでくる。
秀は意識と視線とを文へと向ける。
「まぁ、けど、よかったじゃない。あんたのことだから、こういうきっかけでもなかったら、一生恋ちゃんにプロポーズどころか、告白だってできなかっただろうしね。で、なんて言って伝えたのよ」
「……」
けれども、思いもよらない言葉だったために、秀は二の句を継げなかった。
それどころか、周囲にギクリという効果音が聞こえたんじゃないかと思うほどの動揺を見せてしまう。
「まさかあんた。恋ちゃんに肝心なこと伝えてないなんて言わないわよね。いくら一千万を肩代わりするための、結婚を申し込んだって言っても。肝心なあんたの気持ち伝えてないんじゃ、恋ちゃんからしてみたら、あんた正真正銘の俺様鬼畜の変態だからねッ!」
「……ごもっともです」
落ち着いた店内にジャズの音色が心地よく流れている中、トドメの一撃とばかりに、鼻息荒く捲し立ててきた文が大仰に吐き出した溜息と秀の情けない声とが虚しく響き渡っていたのだった。