偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
偽りの婚約者
親友のカレンからお互いの利益のための結婚、その申し入れを受けてから、二週間が経とうとしている。
偽りとはいえ、いや、偽りだからこそ、周囲にそれを気取られないように慎重に進めなければならない。というカレンの意向で、思いの外のんびりとしたスタートが切られた。
結婚に向けての段取りもあるということで、とりあえずは派遣の契約満了日までは、これまでと変わらず仕事にも励むこともできた。
突然のことだったし、心の準備期間を設けてもらえたのは、恋にとっては有り難いことだ。
その間に、事故の件もカレンが解決してくれたおかげで、恋は平穏な日常を取り戻すこともできていた。
そうして無事、十一月末日締めで、契約満了日を迎え、いよいよお互いの両親への挨拶をという流れになっている。
ここへきてようやく恋は、ふと肝心なことを知らされていなかったことに気づく。
カレンの素性についてだ。
真っ先に聞いておくべきことであるはずなのに、我ながら呑気だと思う。
そんなことを思いつつ、約二週間ぶりにカレンから呼び出された恋は、カレンの仮住まいである、相変わらず豪奢なホテルの最上階に位置するスイートルームのリビングダイニングへと赴いていた。
たった今、テーブルを挟んだ真向かいに座るカレンと、両家への挨拶をするに当たっての、諸々の打ち合わせを始めようとしているところだ。