偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 何とか気持ちを落ち着けようと、テーブルセットに用意されていた、紅茶の注がれた上品なカップに口をつけ、戻そうとしてガチャンと派手な音をさせたと同時に、カレンの落ち着いた声音が響き渡った。

「まずは自己紹介をしないとな」

 いよいよカレンの正体がわかるのかという期待感と緊張感で、思わずゴクリと喉を鳴らせた次の瞬間。

「俺は父が経営する藤花総合病院で脳外科医として勤務している、藤堂秀だ。これからは、カレンではなく秀と呼んでくれ」

 カレン改め、藤堂秀からの言葉に、驚きすぎて、カッチーンと硬直してしまった恋は放心状態に陥ってしまっていた。

 まさか自分が派遣として勤めている、藤花総合病院のご子息だったなんて、そりゃ驚くのも無理はない。

 だがそれだけではない。

 藤花総合病院といえば、昭和初期に創業されて以来、日本屈指の製薬会社である藤花製薬を始めとする藤花化学、藤花食品を傘下に持つ、『藤花ホールディングス』の創始者である藤堂正義《まさよし》氏のご子息が経営していることでも有名だ。

 正義自身も医師だったらしく、藤花総合病院を経営する一族は代々医者の家系でもあるらしい。

 現在のように、名医揃いとしても有名になったのは、医師ゆえか、正義が医者嫌いだったとかで、それを何とか解消しようと、信頼の置ける腕のいい名医を募って創られたのが始まりなのだとか。

 庶民には少々ついていけない次元の逸話だが、それを簡単にやってのけるほど、凄い一族だということだ。

< 64 / 124 >

この作品をシェア

pagetop