偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
つい最近まで同じ職場で働いていたため、医師の姿なんて何度も見かけていたし、見たからって、特に何も感じたことなんて一度もなかった。
なのにどうして……。
ーー否、理由なんてわかってる。
秀のことを心の中でもう誤魔化しきれないほど好きになっているからに違いない。
つい今しがた、秀がチラつかせた医師としての表情はもちろん、ほんの少しではあったけれど、弱い部分を垣間見せてくれたことに、これ以上にないくらいの喜びを感じてしまっている。
もっと色んな表情を見たい。もっともっと色んな秀を自分にだけ見せてほしい。
こうしている間にも、恋の中でそんな身勝手な想いがどんどん膨れ上がってゆく。
恋はそれらを必死になって抑え込む。
そして秀のことを安心させるためにも、ニッコリと明るい笑顔を綻ばせた恋は、余計な邪念を吹き飛ばすためにも元気いっぱいの声を放った。
「ううん。覚えることがいっぱいで、ちょっと頭がついていけなかっただけだから、もう大丈夫」
恋の様子に一瞬怪訝そうに眉間に皺を寄せた秀が、ふっと笑みを零して。
「なら、休憩するぞ。その間に治療もしなくちゃならないしな」
そう言ってくるなり、ニヤッと悪戯っ子のように笑みを深めた。