燃ゆる想いを 箏の調べに ~あやかし狐の恋の手ほどき~
「ああ、右京さん。いらっしゃい」
まだ絃が張られていない箏や三味線、太鼓
が所狭しと並ぶ店の奥から現れた男性の顔に
は、見覚えがあった。
漆黒の長い髪を後ろで一本に結んだ、長身
痩躯の男性。細面の整った顔立ちが、長い前
髪の隙間から覗くその人は、定期演奏会の時、
舞台上にいた人だ。
「……あっ、尺八の」
「おや?こちらの可愛いらしいお嬢さんは」
店主を見るなり、思わずそう声を漏らした
古都里ににこりと笑みを浮かべると、店主は
隣に立つ右京の顔を覗いた。
「週末には練習で会えるけど、飛炎には一
足先に紹介しておこうと思ってね。こちらは、
新しくうちに入った笹貫古都里さん。ずっと
山田流の方で箏を弾いていたのだけど、うち
の会でやっていくことになったから彼女の箏
爪を新調しようと思って。ここの店主で尺八
の奏者の飛炎だよ、古都里さん」
「はっ、初めまして。笹貫古都里と言いま
す。よろしくお願いします!」
右京に紹介され、古都里は慌ててぺこりと
頭を下げる。右京に負けず劣らず美しい飛炎
に、お世辞とは言え『可愛らしい』などと言
われて古都里はどきまぎしてしまった。その
様子に、ふふ、と笑みを深めると、飛炎は古
都里に手を差し出す。
「初めまして。尺八の奏者で、『天狐の森』
のホームページを担当している飛炎と申しま
す。わたしは合同練習の時しか顔を出さない
ので会えることは少ないですけど、うちの会
のことなら何でも知っているからわからない
ことがあったら遠慮なく聞いてくださいね」
「はい。ありがとうございます」
恐縮しながら差し出された飛炎の骨ばった
手を握る。その手の温もりと飛炎の柔らかな
物腰にほっとした古都里は、さっそく飛炎に
訊ねた。
「飛炎さんが『天狐の森』のホームページ
を作成されたんですね。演奏会の日程を知り
たくて覗いてみたんですけど、竹林を背景に
箏や尺八が品よく並んでいて、シンプルでと
ても素敵でした。でも、どうして箏曲の会の
名が『天狐の森』なんですか?箏と狐と森、
って何となく縁がないような気がしてずっと
不思議に思っていたんです」
遠慮なくという言葉通り、古都里は疑問に
思っていたことを口にする。すると、飛炎は
僅かに目を見開き、窺うように右京の顔を覗
いた。飛炎の眼差しに、右京がこくりと頷く。
「大丈夫。彼女はとっくに僕たちの正体を
知っているよ。そういえば古都里さん、まだ
あなたに話していなかったね。飛炎も僕たち
と同じ『あやかし』だということを」
「あやかしって……えっ?飛炎さんもです
か???」
その言葉に古都里はこれ以上ないほど目を
丸くする。確かに、飛炎からはどことなく神
秘的なオーラを感じるけれど。あやかしとい
うことは、彼も妖狐なのだろうか???
まだ絃が張られていない箏や三味線、太鼓
が所狭しと並ぶ店の奥から現れた男性の顔に
は、見覚えがあった。
漆黒の長い髪を後ろで一本に結んだ、長身
痩躯の男性。細面の整った顔立ちが、長い前
髪の隙間から覗くその人は、定期演奏会の時、
舞台上にいた人だ。
「……あっ、尺八の」
「おや?こちらの可愛いらしいお嬢さんは」
店主を見るなり、思わずそう声を漏らした
古都里ににこりと笑みを浮かべると、店主は
隣に立つ右京の顔を覗いた。
「週末には練習で会えるけど、飛炎には一
足先に紹介しておこうと思ってね。こちらは、
新しくうちに入った笹貫古都里さん。ずっと
山田流の方で箏を弾いていたのだけど、うち
の会でやっていくことになったから彼女の箏
爪を新調しようと思って。ここの店主で尺八
の奏者の飛炎だよ、古都里さん」
「はっ、初めまして。笹貫古都里と言いま
す。よろしくお願いします!」
右京に紹介され、古都里は慌ててぺこりと
頭を下げる。右京に負けず劣らず美しい飛炎
に、お世辞とは言え『可愛らしい』などと言
われて古都里はどきまぎしてしまった。その
様子に、ふふ、と笑みを深めると、飛炎は古
都里に手を差し出す。
「初めまして。尺八の奏者で、『天狐の森』
のホームページを担当している飛炎と申しま
す。わたしは合同練習の時しか顔を出さない
ので会えることは少ないですけど、うちの会
のことなら何でも知っているからわからない
ことがあったら遠慮なく聞いてくださいね」
「はい。ありがとうございます」
恐縮しながら差し出された飛炎の骨ばった
手を握る。その手の温もりと飛炎の柔らかな
物腰にほっとした古都里は、さっそく飛炎に
訊ねた。
「飛炎さんが『天狐の森』のホームページ
を作成されたんですね。演奏会の日程を知り
たくて覗いてみたんですけど、竹林を背景に
箏や尺八が品よく並んでいて、シンプルでと
ても素敵でした。でも、どうして箏曲の会の
名が『天狐の森』なんですか?箏と狐と森、
って何となく縁がないような気がしてずっと
不思議に思っていたんです」
遠慮なくという言葉通り、古都里は疑問に
思っていたことを口にする。すると、飛炎は
僅かに目を見開き、窺うように右京の顔を覗
いた。飛炎の眼差しに、右京がこくりと頷く。
「大丈夫。彼女はとっくに僕たちの正体を
知っているよ。そういえば古都里さん、まだ
あなたに話していなかったね。飛炎も僕たち
と同じ『あやかし』だということを」
「あやかしって……えっ?飛炎さんもです
か???」
その言葉に古都里はこれ以上ないほど目を
丸くする。確かに、飛炎からはどことなく神
秘的なオーラを感じるけれど。あやかしとい
うことは、彼も妖狐なのだろうか???