【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
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 職場に着いて以降も、ラルカの楽しい気分は持続していた。

 普段は退屈な定型的な書類を仕上げている時も、他部署の文官の小言を聞かされている時でも、いつもよりも数段楽しく感じられる。

 時折、無意識に髪飾りに触れつつ、ラルカはふ、と目元を和ませた。


「――――どうやら、楽しかったみたいね」


 背後から聞こえる囁き声。ハッとして振り向けば、エルミラが大層意地の悪い笑みを浮かべていた。


「エルミラさま……」

「楽しかったんでしょう? ブラントとのデート」


 良いなぁ、私もしたいなぁ――――そんなことを口にしながら、エルミラは悩ましげなため息を吐く。

 ラルカは慌てふためきながら、小さく首を横に振った。


「そんな、エルミラさま! わたくしはただ、ブラントさまとお出かけをしただけで。デートだなんて大層なものでは……」

「婚約者と出かけたんでしょう? デート以外になんて呼称すれば良いのよ?」


 呆れたような口調のエルミラ。ラルカはぽっと頬を染める。


「だけど、わたくしたちは仮初の婚約者ですし。普通の婚約者同士のお出かけとは違いますもの……」


 それなのに、デートだなんて勝手に呼んでしまっては、ブラントに対して失礼にならないだろうか?
 ついつい、そんな心配をしてしまう。


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