【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
(けれど)


 何故だろう。
 先程からずっと、ブラントの笑顔が脳裏に散らついて、ちっとも離れてくれそうにない。

 ラルカを呼ぶ声が。
 繋いだ手のひらの温もりが。

 ラルカをその場に縫い止める。


 もしもラルカがアミルの妃になったら、ブラントは何と言うだろう?
 喜ぶだろうか。
 おめでとうと、笑うだろうか。
 それとも――――。


 アミルはニコリと微笑むと、ラルカの頭をポンと撫でた。


「このイベントを成功させれば、否が応でも妃の呼び声は高くなる――――少なくとも君は、その自覚だけはしておく必要がある」

「……ご忠告、ありがとうございます、アミル殿下。
ですが、わたくしは形だけとはいえ、既にブラントさまの婚約者です。妃になるのは難しい――――いえ、できかねますわ」


 気づけばラルカは、そんな言葉を返していた。

 二人は仮初の婚約者で。
 簡単に壊せてしまう関係で。
 ――――いつかは解消する約束だと、自分が一番よく知っている。

 それでもラルカは、『分かりました』と言いたくなかった。


 アミルの唇がゆっくり大きく弧を描く。
 彼は離れた場所にいるブラントをちらりと見遣ると、やがてゆっくりと目を細めた。


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